スズキのワゴンRです。
エンジンがかからないということで入庫してきました。
ロードサービスで搬入されてきて、そのロードサービスの隊員さんによると
「セルが回らない」
という症状だといってました。
とりあえず症状を確認する前に、一応オイルなど油脂類が全て入ってるかを点検。この基本って大切です。運ばれてきた車がどんな状況下にあるかわからない。
もしかしたらオイルが入ってないなんていう可能性だってあるから。
トラブルで運ばれてきた車は、エンジンをかけてもいい状態にあるか?というところからスタートすべし。
話を戻してワゴンRです。
ロードサービスの人が降ろしてくれた後、症状を確認しようとプッシュスタートを押したら
「ぶるん・・ぶるん・・・・・ぶるんぶるん」
なんとかかってしまいました。そして、バッテリーがめっちゃ弱い・・。まさかバッテリーが弱くてエンジンがかからない・・。なんていうオチは・・・ないだろうな。だってロードサービスの隊員さんです。
そんな判断くらい瞬時でしょう。でもバッテリーテスターをつないで見ると、当然健全性が0パーセント。劣化しているのは間違いない。
僕の故障診断はまずは情報を集めるところからスタートします。バッテリーは劣化大。そしてメーターのインフォメーションパネルにキーの電池へてますよマークもついている。
この車はいわゆるスマートキー装着車で、エンジンはプッシュスタート式。イモビライザーも付いている模様。
ここまでを整理する。
1、バッテリーは劣化大
2、エンジンがかからなかった原因はセルが回らなかった
3、スマートキーの電池マークも点灯している
この中で3については電池をまだ疑っていません。なぜなら、スズキ車の場合はメインキーの電池を交換したとしても、スペアキーの電池が減っていたら両方交換をするまで警告灯は消えません。
もしかしたらメインキーの電池は交換されているかもしれない。一応サーキットテスタを当ててみたが、ジャスト3V。ボタン電池って誤差がそこそこ出てくるしあまり参考になりません。
ただエンジンをかけるという以外のスマートキーの動作はきちんと作動しています。
ここでオーナーに問診の電話をすると
「今まではエンジンがかかっていたけど、急にかからなくなった。その時うんともすんとも言わなかったと思う。」
このあたりくらいまでしかわからないとのこと。どうも話しっぷりではバッテリー上がりの症状が当てはまる。でもロードサービスの人がバッテリーだったら、先にいうと思うんだよな。
とりあえず症状を再現するところからスタートすることに。エンジンもかかったので、工場の診断スペースへ車を移動。工場のちょっと奥まったところに診断スペースを設けてあるのです。
邪魔にならないように末切りをして端っこに寄せておきました。車を移動したところで、他の予約作業が入ってたのでオーナーに代車を出して、時間をもらいました。
夕方に仕事がひと段落ついたので、ワゴンRをさわってみる。
ブレーキペダルを踏んで、プッシュスタートを押す。電源がはいる・・・・が、セルが回らない・・・。
出た・・。症状が出たぞ。これのことをいっているのか?
この時に感じた違和感。通常バッテリーが劣化している場合だと、セルモーターが回らないにしても回そうと電気が流れます。その一瞬車に大きな電気負荷が発生するので、メーターパネルやルームランプなどが一瞬暗くなるんです。
そういうことが一切発生しなかった・・。どういうことだろう?疑問に思った僕は、ジャンプスターターをこの状態で接続してみることにした。
もし僕の思い違いでバッテリー劣化だとしたらこの状態でエンジンがかかるはず。
ジャンプスターターを繋げてプッシュスタートを押してみると、
電源はオンになる。・・・がセルモーターの反応がまったくなし。
ここで症状を一旦整理します。
1、バッテリーは劣化しているが、ジャンプスターターを繋いでも症状はかわらない
2、セルモーターに電気がまったくいっていない?セルに電流を流す電気負荷がまったくない
ここで、仕事を終えた同僚整備士が見に来た。
同僚「症状出たねー。電源は入るんでしょ?イモビじゃない?」
僕「いや、イモビじゃないと思う。イモビが不良であれば、セルモーターは回っても火花が入らない制御をする。」
同僚「そういえばそうだね。何だろうね?ダイアグは?」
僕「これからつなげるところ」
僕も一瞬イモビ系統か?と思った。しかしまずこの車はスマートキー搭載車のプッシュスタート式です。もしスマートキーのイモビに異常があれば、電源がONにすらならないと思う。なぜかイグニッションONにはなっている。
極論をいうと、セルモーターさえまわせればエンジンはこの状態でもかかってしまうんじゃないだろうか?
ここで状況が整理できてきたので、コンピューター診断器をつなげる。
なんかたくさん出てきたぞ・・・。
全て過去コードになっているけど、気になるものがあった。
ステアリングロックユニット内部異常というB1162の故障コード。
この時僕は知らなかったのです。まさかこのワゴンRにそんなサービスキャンペーンが出ていたなんて。それは後ほどご紹介。
ステアリングロックユニット内部異常とはなんだ?さっきエンジンがかかった状態と今の状態の何が違う?
よーく思い返していくと、ひとつ違う点があります。
それは、今現在エンジンがかからない。そしてハンドルが曲がったまま止まっているということ。さっきはハンドルは直進状態にあった。
もしかしてこのステアリングロックユニット内部異常って・・。
ワゴンRのハンドルをまっすぐにして再度プッシュスタートを押すと
「ぶるん・・ぶるん・・ぶるん・・」
回った!どうやら読みは当たったと思われます。取り合えず自分の中で仮説ができたので、あとはそれを裏付ける証拠があればいい。
会社のファイネスでワゴンRの修理書などいろんな情報を集めてみると
このワゴンRには電動ステアリングロックユニットという部品が取り付いていてとある制御をかけています。
プッシュスタートの車って、エンジンを切るとハンドルロックがかかりますよね?これをこの電動ステアリングロックユニットという部品が行っています。
エンジン始動時にステアリングロックを解除するわけですが、これがうまくいっていないということ。エンジンがかかっているのにステアリングロックが解除できなければ車はその方向にしか進めません。大変危険です。
そうなるのはまずいということで、ステアリングロックが解除できないと判断した時はセルモーターを回さない制御をしているのです。
電動ステアリングロックユニットの突起がステアリングシャフトにはまることでハンドルロックをしています。ロックユニットが壊れてハンドルロックを解除できていない・もしくは解除しているのに解除できていないと認識している場合エンジンがかからない。
今回の場合はどうも後者かな?ステアリングロックユニットの突起部分の摺動性が悪くなっているのかもしれないね。その情報さえわかったら、コツがつかめてエンジンをうまくかけられるようになりました。
もしかして・・とスズキの保証部分を見てみると
出てましたよ。サービスキャンペーン。保証で直っちゃう車がありますね。しかし全部の車ではないという。ディーラーに確認したら、この車体番号一覧にのっていない車両についても追加されてる車体番号があるので問い合わせてくれという。
この車は残念ながら保証ではなおせませんでした。ステアリングロックユニットは19600円。かなり高い部品です。
こちらがステアリングロックユニットという部品です。
ここにハンドルのステアリングシャフトを挟み込んでいます。
ステアリングシャフトの切り欠きにこの突起が噛みこむことでハンドルロックをする。
この突起の摺動がよくない場合など、今回の症状になります。
もしエンジンがかからなくなったら、ハンドルをガチャガチャやりながら振動を与えると突起が動くようになるかもしれない。
とりあえずエンジンをかけて工場まで行ってください。
今回のような症状が出たら、サービスキャンペーンに該当していないか見てください。
最初からネットを調べればこんなに遠回りしなかったけどね。やっぱり自力で結論に達せないとダメですからね。
ガソリンスタンドでアルバイトをはじめ、その後指定整備工場へ就職。
働きながら、3級ガソリンエンジン、2級ガソリン自動車の整備資格を取得。2級整備士の資格を取得後整備主任に任命され、自動車検査員の資格を取得。
以後、自動車整備の現場で日々整備に励んでいます。
現役自動車整備士であり、自動車検査員。YouTuberもやっています。車の整備情報から新車、車にまつわるいろんな情報を365日毎日更新しています。TwitterやInstagram、YouTubeTikTokも更新しているのでフォローお願いします。