Categories: 日記・戯言

整備士になって、16年経過。いろいろと振り返ってみると

僕は今でも覚えています平成14年4月1日に自動車整備工場に就職しました。月曜日でした。出勤して、

「月曜スタートだとまるまる一週間もあるのか〜。」

という気持ちを持っていた(笑)ので初就職の1日目は月曜日だったという記憶が鮮明に残っています。今年は平成31年。平成30年度も終わりに近づいています。整備士として、16年目が終わる自分を振り返って見たいと思います。

整備士の資格はなくて乗っていたのはFC3S

就職した時に乗っていたのは8万円で買ったFC3S。当時の先輩整備士たちって、今の整備士とは全く違うんです。もうバリバリのヤンキー上がりか、メカオタクの2つに分けられました。

僕はどちらかというと、ほんのちょっとヤンチャだったけど先輩たちの経歴や姿をみるとガクブルでした(笑)

当然先輩たちも車は好き。ただ家庭も持っていて、実際整備工場の給料は安いので当時はみんなちょっとヤンチャなファミリーカーに乗ってましたね。先輩に

「おう、おめぇ車何乗ってんだ!?」

と、聞かれて

「RX−7です!」

と答えた時のリアクション

「ロ、ロータリーか・・・」

当時の先輩たちは日産党が多かったので、ロータリー小僧だった僕はまたまた若干微妙な空気な男。年齢も年の近い人はいなくて、20歳以上くらい離れていたんです。

子供と大人ぐらい先輩たちとは違った。20歳の年の差を埋めるべく、なんの技術もなかった僕は働きながら自動車整備士の資格を取得していきました。

3級ガソリンエンジンをとって、3年間実務経験を積んで2級ガソリン自動車をとった。そのあと整備主任になって、自動車検査員もとりました。

当時の会社って、一から人材を育ててくれるアットホームな町工場に叩き上げられていきました。

自分自身最大の失敗は何か?

このエンジンが僕が今でも忘れられない最大の失敗をしてしまったエンジン。車は違います。

なんだと思いますか?このエンジン。ディーゼルエンジンです。トヨタの3Cと呼ばれるエンジン。

今のクリーンディーゼルになる前、トヨタの小型貨物に乗せられていたエンジンはこの3Cが多かった。ライトエースとタウンエースですね。

どんな失敗をやってしまったのかというと、タイミングベルト交換後の失敗です。

車はライトエースで、キャブオーバー車。運転席・助手席下に3Cが収められているタイプです。このエンジンのタイミングベルトを交換して1週間後にエンジンが途中で止まってしまった。というクレームを受けてレッカーされてきた。

なぜか?タイミングは間違いなかった。原因はなんとクランクプーリーボルトの折損です。クランクシャフトプーリーのネジが折れちゃったということは・・・・。原因はいくつかあります。

一番はトルク不足。トルクが強すぎてもあまりよくありません。レッカーされてきたライトエースを見て呆然と立ち尽くす僕に先輩が一言。

「俺がやる」

この時、僕は多分3年経過するかしないかくらいのキャリアしかなかった。当然リカバリーするだけの技術を持ち合わせていなかった。

エンジンを見てみると、クランクシャフトに見事にボルトが埋まった状態になってる。一番心配なのは、クランクシャフトが無事かどうかという点です。

クランクがダメになっていれば、エンジンを載せ替えたほうが早いほどの大損害。結果先輩は折れたボルトを綺麗に抜いて、見事にリカバリーしてくださいました。

自分にとって、最初から最後まで本当に世話になりっぱなしだったのがこの先輩です。

一番心が折れそうになった作業は何か?

昔からMHO ENGINEERINGを読んでくださってる方は、記憶の片隅にあるかもしれません。

一番心砕けそうになった作業はこれです。何のエンジンかわかりますか?1AZです。

1AZの載せ替え。車は初代VOXY。

確か整備士になって6年目くらいの出来事。エンジンの換装は他の車で何度かやっていた。ただこのクラスの載せ替えは初めてだったので、僕が担当することになりました。

エンジンがダメになった原因はオイル交換をしなすぎ。完全なエンジンブローです。途中で止まっちゃったんです。オイルを抜いたら金色なんですよ。メタルの粉が混ざって。

リビルトエンジンに載せ替えることになったんですが、問題はその作業。当時、整備振興会のネットサービスFAINESも始まったばかりで、うちの工場はネットで整備マニュアルを閲覧できなかった。

義理の兄がトヨタ整備士をやっていたので、重要なポイントのトルクを教えてもらって作業を開始。

配線をばらすのにリレーボックスを若干分解したり、初めての作業もありましたがエンジン自体を下ろすのは半日かからなかった。

一番最速で下ろす方法を考えたら、サスペンションメンバーごと下に落とせ!だったわけです。

ここからリビルトエンジンへ組み替え作業。重要ポイントは聞いておきましたのでそれらを遵守して作業を進めていた。

が、しかしこのVOXYって今までと違うエンジンだった。どこが違うかっていうと、直噴エンジンだったんです。

普通のガソリンエンジンはインジェクターでインテークマニホールド内にガソリンを噴射。混合気をシリンダーへ送って燃やしています。

直噴エンジンは通常の燃料圧力以上の圧力を補助ポンプで作り上げて、高圧インジェクターで直接燃焼室へ噴射するんです。今までインジェタクターを交換した経験がまったく役に立たない。

通常ガソリンエンジンのインジェクターって、数本のOリングで止まってるだけなのでそんなに大変じゃない。

しかし、この1AZのインジェクターはもう最強に硬い・・・。デリバリーパイプに固定されておらずエンジンに1本ずつステーを介して取りついてるんですけど、ものすごく硬い。

トヨタの義理兄に聞いたら、ディーラーではエンジンを車に乗せた状態でインジェクターは交換するっていうんですが、ものすごく無理ゲーです。

もう下ろしたエンジンなのに抜けてこないインジェクターさん。

これが原因で、泥沼にはまる。

結果全ての補機類を付け替えてエンジンを搭載。クーラントとオイルを入れてエンジンを始動!一発で火が入りました。ほっと胸をなでおろしたのもつかの間。

しばらくするとエンジンチェックランプ点灯。エンジンが片肺状態に。??この時はまったく原因がわからなくて、コイルやプラグをそれぞれの気筒で入れ替えてみても症状は逆転しない。

もしや・・・。

結果から書くと、エンジンを7回くらい脱着した(笑)もう最後なんかVOXYのエンジン脱着を30分かからないでできるようになってました(泣)

エンジンを載せて、実走テスト。調子わるーい。工場に戻ってエンジン下ろし。直して載せてテスト。この繰り返し。

原因はインジェクターだったんです。やはり脱着時に若干の損傷をしていた。テスターをおう限り2本がダメになってたので、2本交換。

順番にすると

1回目エンジン載せる・不調で下ろす

2回目ダイアグコードに該当していた燃圧センサを交換してみる・不調で下ろす

3回目不調シリンダーを特定・インジェクターを入れ替えると逆転。2本新品へ交換

4回目不調になったインジェクターを交換したら、なんと燃料が漏れてきたのでもう一度

5回目インジェクターのOリングのサイズが違っていて、組み直し。やっとなおる?

6回目残念アイドリングは綺麗にしていたけど加速しない。正常と思っていた残り2本のインジェクターも負荷をかけるとダメだった

7回目結果的にインジェクターを全数交換してようやく終了。

時系列にするとこんな感じ。毎日の業務をこなして、納車が終わったらVOXYと向き合う日々。時間的に1ヶ月くらいかかってしまった。インジェクター関係の部品がすぐに届かないんです。

この話を義理の兄としていたら、ディーラーでは1AZのエンジンを換装するときはインジェクターを4本用意するようになったといっていました。まだVOXYのエンジン換装は珍しい事例だったですね。

もう、ここで僕の整備士としての忍耐力と精神力はピークまで上り詰めた。だけど、技術がついてこない・・・。そんなジレンマでしたね。

ただ、5年経過してからは失敗は全て自分で尻拭いをできるようになっていたのがよかった。

どうしても自力で直せなかった整備

自動車整備工場って、回転率が重要になってきます。ある程度はまってしまうとその作業は外注化することもある。

僕が担当していた整備で、どうしても自力で直せなかったもの。それはエンジンがかからない時があるというライトエース。一旦かかっちゃえば問題ないんです。

一旦走行してきて、そのあと再始動しようとるとクランキングがめちゃくちゃ長い・・・。この原因を突き止めろ!というミッションだったんです。ですが、最終的に高額な部品だったので、DENSOの力を借りました。

ガソリンエンジンで7Kというエンジンを搭載しているもの。エンジンがかかってる時はなんら問題なかった。だけど、再始動がうまくいかない。

一から点検していきました。7Kというエンジンは未だにディストリビューターとプラグコードを使っています。燃圧や火花は問題ないし、点火タイミングも問題がない。

各センサにオシロスコープを繋いでいくと、一つだけ腑に落ちない点が出てきました。それはバッテリ電圧が12Vを切ってくるとエンジンがかかる。走行直後って、バッテリーは満充電近くになり、電圧が高い時では13V台で推移しています。

オシロスコープの波形をみると、ドンピシャなんです。犯人はお前しかいないだろ!

ECU!!と心の中で叫びたかったんですけど、この部品を外すわけにはいかない・・・。なんせ高額な部品です。交換して違いました!じゃ許されない。

そこで、知り合いが働いていたDENSOに相談。トヨタ車だし、DENSO以外にドンピシャなのはなかった。技術者に今まで僕がテストしたデータ全て渡して、ECU不良の疑惑も伝えた。

こういうとき、同タイプのECUをつけかえてみる。ということをやりがちですがそれはちょっと危ない。

もし付け替えるとしたら、不良になってるECUを正常な車の方へつけるという試し方の方がいい。もしなんらかの原因があってECUが壊れたのなら、正常なECUをつけることにリスクが生じます。

正常な車に壊れた部品をつけて、症状が車で逆転するのを確認する方がリスクは少なくなる。

DENSOの技術者はこういってくれました

「ECUで間違いありません。安心して交換してください。よくここまで調べましたね」

労いの言葉までいただけるあたり、当時のDENSO技術者の懐の深さっていうのにジーンときてしまった。

悔しいのは間違いなかったけど、お客さんの事を第一に考えればこの選択肢を選んでよかったんだと今は思っています。

現場を離れて、事業上管理責任者補佐に

実質僕が現場で整備をメインにやっていたのは正味13年間くらいです。今は現場を離れています。

今は主に内勤。事業上管理責任者の補佐とフロント業務。年下の育成にクレーム処理をやっています。

最初に入った自動車整備工場は10年弱でなくなってしまい、再就職して今の整備工場に入社しました。

現在働いてる整備工場は僕と同じで中途採用が非常に多く、日産、トヨタ、三菱、マツダ、スバル、外車ディーラーの中途整備士達をかき集めた多国籍軍になっています。

それぞれの苦労話を聞いてると、やはり興味深く技術水準もみんな高い。年下でも僕より凄腕がゴロゴロしています。

今ではネットも充実して、いろんな整備士がそれぞれ質の高い情報を発信しています。ブログとかYouTubeを見ていると、すごいよなぁって。

情報が共有化されることで、僕らの仕事もよりスムーズになってきますし。

僕が自動車整備を始めた頃は、ネットで車の情報を出している人って、個人ユーザーのDIYがほとんどでした。それから考えると今はありとあらゆる情報が出てきていますね。

来年度、僕はどういう立場にいるのかは全く不透明ですが、ちょっとニッチな情報を配信し続けていきたいと思ってます。

YouTubeも始めたのはそういった理由なんです。今ではこのサイトよりも有益な情報はネット上に山ほどありますから。

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