ダイハツのムーヴです。
型式はL185Sというモデル。急にウインカーが出なくなってしまったという連絡を受けて入庫してきました。
預かった時は、そんなに大したことないでしょう。なんて油断していました。今までウインカーが出なくなったという修理を何回かしたことがあり、ある程度の経験則があったからです。
しかし、今回は強敵でした。
入庫してまずは症状を確認します。ウインカーをONにすると、まったく反応しない。カチッともなんとも言いません。
それではとハザードスイッチを試してみる。すると、こちらも同じ。ハザードも全く点灯しない。
ウインカーが出なくなる症状として、ちょっと昔の車だとハザードスイッチがハーフになってる場合があります。
ハザードのスイッチが完全にONになっていなかったり、OFFになっていない時ってウインカーが出ないんです。これはちょっと前の車です。
昔の車ってドリンクホルダーを吹き出し口につけると、ちょうどハザードスイッチを押しちゃう構造のものがありました。今回はそれとは全く関係ない。ハザードのスイッチの接点不良なども考えましたがそうではない。
もしフラッシャーリレーなどが故障していると、ウインカースイッチをONにすると一発目は光ったりするんです。それすら起こり得ないということで、とりあえずリレーの故障という線も除外。
ここまでの症状をまとめると
・ウインカーがまったく出ない。
・ハザードもまったく出ない。
ある程度の症状が確認できたので、次に行ったことは当然ヒューズの点検です。
ムーヴのヒューズボックスはグローブボックスの裏です。
グローブボックスを外すと見えてきます。
こちらがヒューズの配列。左側の列の真ん中より上にハザードとホーンを共有しているヒューズがあります。15Aのもの。
ここでほとんどの整備士はホーンを鳴らすでしょう。ホーンがなればいちいちヒューズを抜かなくても切れてるかどうかは一目瞭然。
ただ、ここでホーンを鳴らしてしまうと、なんだか達成感に欠ける(笑)
きちんと15Aのヒューズを抜いて確認しようではないですか。すると・・・・。
なんとー
当然切れてません。正常です。うーんがっくり。そりゃそうだろうなぁ・・。この車のオーナーは若干車に詳しい人なのです。おそらく本人であってもここくらいまでは点検してるだろう。
それでは、そのほかに怪しいものがないかヒューズを一つ一つ抜いて確認。
すると一つのヒント。
ヒューズの右下にあるIGが切れている。とりあえず正常なヒューズに差し替えた瞬間。
ブチ・・・・
おっと・・これはちょっと厄介コースへ変更ですね。IG1のヒューズを交換した瞬間に切れるということは・・
そう!どこかでショートしてるってことです!
うおーショートコースかー。これは時間がかかるんだー。どこかでショートしてる場合の点検方法は当然配線図とにらめっこ。そして部分部分で配線カプラーを切り離して導通検査をしていかないといけない。
該当の配線を見つけたら、その配線をたぐって行ってボディーショートしてるのかどうかを確認するわけです。なんてこった。とりあえずこの時点で、今日中に返せる可能性がゼロに近くなったのでオーナーに進捗を報告して時間をもらう。
こうなったら地道に探っていくしかない・・。
今までを整理すると
・ウインカーがまったくつかない
・ハザードもまったくつかない
・IG1のヒューズがすぐに切れる
・IG1系統の電装品全てが使えない(バックもつかなかった)
・IG1のショートを直せばウインカーがつく可能性が高い
というところまできました。なんとなくウインカーがつかない原因がわかった。あとは一つずつ地道にサーキットテスターで配線ショートを探っていくのみ。
しらみつぶしに配線をチェックしていくと、恐ろしいことにハーネス関係には異常がなかった。ということは、ハーネスではない部分でショートを起こしているということになります。
IG1系統を担ってる部品で怪しいのがこれです。
ヒューズボックス裏に付いているボディ統合ユニット。これはボディの伝送系統のECUみたいなものですね。というか、これしかない・・・。
これを交換すれば完治する可能性があります。ただ、なぜこいつが壊れたのか?その原因をシュミレートしておかないとダメです。
万が一そのほかに問題があって、新品のボディ統合ユニットを取り付けた瞬間壊れたらどうするか?ボディ統合ユニットが壊れてウインカーがつかないのはもはや明白。ですが、ユニットを壊す原因がほかにないとも限らない。
散々ハーネス間のショートを疑って点検しましたが、今一歩踏み切れません。部品代が高い。15300円。
自分のショート点検を疑うのか?どうするのか?
とりあえずここまでの進捗状況をオーナーに報告。細かく報告を入れることで、オーナーに親近感を持ってもらうのが僕のやり方。中にはうざいという人もいますけど(笑)
報告をかねて、どういう状況下でこの症状が起きたのかをとにかく思い出してもらった。すると一筋の光明が!
どうやらこの車はしばらく乗っていなくて、バッテリー上がりを起こしていたとのこと。オーナーが自分でバッテリーを充電かけたらしいんです。エンジンがかかるようになったけど、実際に乗ろうとしたらこの有様だったという。
その時に、きちんとバッテリー端子を外して充電をかけたか?バッテリー端子をショートや逆接しなかったかを思い出してもらうと、そういえばその辺は適当にやってしまったと思うとオーナーが思い出してくれました。
この言葉に背中を押してもらった僕は迷うことなくユニットを注文。15300円。
しかしちょっとチキンな僕は部品が届くまでの間に、あることを試してみた。それは、ちょうど同じ型式のムーヴが代替えになるということで、下取り車で入ってきた。
何を試すかというと、壊れているだろうユニットを下取り車に取り付けてみること。これをすることで症状が移れば間違いなし。逆に正常なユニットを壊れたお客さんの車に付け替えることはしません。
万が一車両側に問題があると、下取り車のユニットを壊しかねないから。とりあえず壊れている部品単体をテストするためのドナーということ。
伝送部品が届くのは中1日かかるので、試せることは試しておく。
ユニットを付け替えると下取り車も同じ症状になりました。これで、原因はボディ統合ユニットで間違いない。
部品が届くまでの間、しつこいくらいハーネスをチェックして問題なしと判断して新品をつけて修理完了。
ECUのような高額な電子部品を交換する時はいつも緊張します。
とりあえず今回の出来事をまとめると、
オーナーがしばらく車を乗ってなかったためバッテリーをあげてしまった。自分でバッテリーを充電しようと取り外し、充電。その脱着手順においてなんらかの原因でショートを起こし、ボディ統合ユニット内部を破損。
統合ユニットの基盤中でショートを起こしてIG1のヒューズを飛ばす。以下ウインカーがつかなくなるといった流れですね。
無事に直ってなによりです。よく考えてみればこのくらいの年代になると、ウインカーってリレー廃止されているのかも。フラッシャーリレーの作動音がほとんど聞こえないし、それらを統合ユニットで制御しているということですね。
故障した時高くつくな・・・。皆さんもショートには気をつけてください。
ガソリンスタンドでアルバイトをはじめ、その後指定整備工場へ就職。
働きながら、3級ガソリンエンジン、2級ガソリン自動車の整備資格を取得。2級整備士の資格を取得後整備主任に任命され、自動車検査員の資格を取得。
以後、自動車整備の現場で日々整備に励んでいます。
現役自動車整備士であり、自動車検査員。YouTuberもやっています。車の整備情報から新車、車にまつわるいろんな情報を365日毎日更新しています。TwitterやInstagram、YouTubeTikTokも更新しているのでフォローお願いします。