ミニキャブ U62T オーバーヒートによるシリンダーヘッド交換 クラッチ交換

三菱のミニキャブという軽トラックですが、お客さんからエンジンが止まってしまうということで引き上げに行ってきました。症状を見ると、エンジンをかけた瞬間に激しいノッキングが発生したのですぐにエンジンを停止。確認したところ、クーラントが漏れてオーバーヒートを起こしていた。

いつ頃からかと聞いたら2、3日前からだという。エンジンが停止してしまうほどのオーバーヒート。これはいやな予感がするなと思いながらレッカーして行きました。

損傷具合を確認すると、下回りをぶつけていた。ラジエターが破損しているためラジエターから冷却水が漏れていた。オーナーはダンプカーなので修理をしてほしいという。エンジンの損傷具合によっては中古に載せ換えることも視野に入れながら、とりあえずシリンダーヘッドをはがすことにしました。リフトに乗せるために、水を入れて動かしてみたらなんということかクラッチまで滑っている。力がなくなったエンジンをなんとかしようと無理をしたらしい。クラッチもオーバーホールしないと駄目。

軽トラックは基本的に座席の下にエンジンがあります。シリンダーヘッドをはがすために、センターコンソールも取り外します。

作業スペースが確保されましたのでガンガンと分解です。U62Tのタイミングベルトは何回か交換したことがあるので、ヘッドをはがすのはイメージができる。下から作業をした方が速い。

というわけでタイミングベルトカバーまで一気に外しました。シリンダーヘッドを外すためにはタイミングベルトを外す必要があります。

カムのスプロケットを外して、タイミングベルトの奥のカバーも外す。これでエンジンフロント周りは外し終わりです。続いてエキゾーストとインテーク周り。

エンジンマウントの関係上、車上でエキゾーストマニホールドを外すのは手間だったので、エキマニはつけたままヘッドをはがすことにしました。エキマニとフロントパイプのネジを外して、エキゾースト側も完了。

続いてシリンダーヘッドカバーを取り外して、インテークマニホールドを外しにかかりました。ですが、割と大変だったので、シリンダーヘッドとインテークマニホールドの結合を解いて、インテークマニホールドとエンジンの間に木片を入れて持ち上げる作戦に変更。

シリンダーヘッドに取り付いてくる配線等をすべて外します。インテークマニホールドを車上においてくるので燃料ラインは取り外しません。

これでシリンダーヘッドボルトを外側から内側へ向かって外します。特殊工具が必要です。といってもちょっとリーチの長い六角です。

シリンダーヘッドが外れました。オーバーヒートで問題なのは、シリンダーヘッドが歪んでいるかどうかということです。今回の場合は歪んでいる可能性が相当高い。何せ2、3日エンジンが止まりながらもオーバーヒートしながら使い続けていた訳です。オールアルミエンジンだとシリンダーブロックも危ないです。この3G83はシリンダーヘッドのみアルミなので、ヘッドが心配です。

とりあえず、まずは現状がどうなっているのか、整備メニューはどうするかを提示するための作業です。もしかしたらエンジンが駄目になっていて修理を見送る可能性もでてきます。

シリンダーヘッドをオイルストーンで磨きます。ヘッドガスケットのカスが残っていると正確にゆがみ測定ができません。

磨きましたが、なんとなーく黒く残っている部分が非常に心配。とりあえず測定に移ります

3G83の

シリンダーヘッドの歪み限度は0、2mm

シリンダーブロックの歪み限度は0、1mm

ストレートエッジとシクネスゲージで測定します。0、2mmのゲージが通らなければ歪んでいないということ。

しかし予想を裏切り、やっぱり黒くなっている部分がスカスカ。シリンダーでいうと、2番と3番のエキゾースト側が歪んでしまっている。この時点でシリンダーヘッドは使えない。

次にシリンダーブロックです。ヘッドガスケットをはがして、こちらもオイルストーン攻撃で磨きます。

ヘッドは鋳鉄製。アルミよりは頑丈です。

0、1mmのシクネスゲージをあてたところ、エンジンに歪みはないのでシリンダーヘッドのみ使えないと言うことになります。続いて修正研磨をするかシリンダーヘッドを交換するかをオーナーに相談したところ、リビルトのシリンダーヘッドがいいということになりました。

これで修理メニューが決まったので、ラジエターを修理に出します。そしてクラッチもOHすることにします。

リビルトのシリンダーヘッドをオーダーしている間にラジエターを外注修理にだします。フロントバンパーを外してコンデンサーの奥にあります

はっきりときびしい意見になりますが、三菱のこのミニキャブという車はラジエターの搭載位置が低すぎます。他のメーカーではぶつける心配がないけど、ちょっとした段差をクリアするとラジエターにあたることがあるんです。何度もラジエターを修理したことがあるんですよ。

つづいてクラッチのOHに入ります。同時進行している方が時間がかからなくてすむ

こんなヘッドをはがした状態でクラッチをOHしたことなんか初めてですね。先輩からだったらエンジン降ろした方が速いんじゃない?という突っ込みをもらいましたが、順番としてエンジンの損傷具合でオーナーが修理をやめるということが選択できるようにしてあげたかったんですよね。結果直すことになりましたけど。

そしてリビルトのシリンダーヘッドが到着しました。恐ろしいことにヘッドガスケットが付いてこなかった。ついてくるもんだと思ってたけど。急いでヘッドガスケットとインマニとエキマニのガスケットを注文。ついでにサーモスタットとパッキンも注文。

リビルトのシリンダーヘッドはバルブクリアランスの調整はされていない。なのでバルブクリアランスの調整をまずとる必要があります。ですが、3G83のバルブクリアランスは温間時にとるように指定されています。実際整備データを見ると温間時しか乗っていない。しょうがないのでファイネスで整備マニュアルを見たら、参考の冷間時の調整値が載っていた。この冷間時でバルブクリアランスを調整しておいて、エンジンをかけて暖めた状態で最終的に取り直すことに。

ちなみに3G83のバルブクリアランスは

温間時

インテーク 0、20mm

エキゾースト 0、30mm

冷間時(参考値で基本は温間時にとる)

インテーク 0、11mm

エキゾースト 0、22mm

ということになっています。

しかしこれはやりにくい。車上でやるときは火傷を覚悟しないといけないかもしれない。

バルブクリアランスをとったら、エンジンに搭載する前にエキゾーストマニホールドを取り付けます。

ガスケットをつけて、エキマニをつける。

エキゾーストマニホールドの締め付けトルクは

24±3 Nm 冷間時

その他移植するものを移植します

リビルトのシリンダーヘッドを取り付け準備に入ります。新しいヘッドガスケットをシリンダーブロックにセット

慎重にシリンダーブロックにシリンダーヘッドを載せます

シリンダーヘッドボルトを清掃して、ネジ部分にオイルを塗布して組み付けます。

シリンダーヘッドの締め付けトルクは64±5 Nm 冷間時

内側から外側へ向かってひらがなの「の」の字を描くように何度かに分けて順番に締めていきます

続いてインテークマニホールドを取り付けます。

インテークマニホールドの締め付けトルクは 12±1 Nm 冷間時

あとは復元して行く

元に戻すのは簡単です

オルタネーターなども元に戻して行きます。

サーモスタットも念のため新品へ

タイミングベルトをかける。

室内を元に戻して行き

室内は完了。

あとはラジエターの修理が上がってきたものをとりつけてオイルとクーラントを交換。

エンジンをかけて、漏れ等をチェック。よければヘッドカバーを開けて最終的にバルブクリアランスを取り直し。

ヘッドカバーを再度とりつけて、徐々に負荷をあたえて行きます。試運転をして問題がなければ作業は完了となりました。リビルトのシリンダーヘッドやクラッチもオーバーホールなどで作業的にはかなりお金がかかりましたが、オーナーは喜んでくれました。

オーバーヒートには十分注意してください。今回こんなに大掛かりな修理になってしまった理由としてオーバーヒートでヘッドが歪んでしまったということ。もし早めにオーバーヒートに気づいていれば、ヘッドガスケットの交換だけですんだと思われます。

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