痛ましい事故があとをたちません。先日も、池袋にて大変な事故が発生しました。この件について自動車整備の現場で働く者として、現状はどうなのか?どのように対策すべきなのかを考えてみました。
まず、かなりご高齢のお客さんが当社でも一定数います。一番年上で90代になってる人もいます。現役で車を運転しています。うちの工場ではマニュアルの比率がダントツに高い。ずっとマニュアルを乗ってきた人が多く、途中でオートマに切り替えができなかったのでオートマが乗れないというパターンです。
ただでさえ操作が多く難しいマニュアルをみなさん運転しています。多分田舎にいくほどこういった傾向が強いんじゃないかなと。
年齢を重ねると、当然全てにおいて感覚が鈍くなってきます。僕も年を重ねるたびに、判断力が鈍くなってきたと感じます。それが90代になったら、どのような状態なのかは自分で体験していないので語れませんが、20代や30代が運転するよりもずっとハンデキャップになってくるでしょう。
運転ミスによる事故。その一番の原因が
「踏み間違い」
によるものです。本人がブレーキを踏んでいる場合であっても、アクセルペダルを踏んでいることに気がつかない。先輩にトヨタの整備士がいますが、近年の車にはEDRというものがついてるので、事故時に全て運転ログを記録している。それを解析して、直前にどのような操作をドライバーがしていたのか証拠として開示することができるそうです。
うちの会社の診断機等ではそこまでログを読み取れないので、正規ディーラーであれば事故状況を解析することができます。電子スロットルになってからは、アクセルペダルに可変抵抗のセンサがついています。これがどの程度アクセルを開いていたか記録を残しているわけです。
トヨタの先輩の話に戻りますが、高齢の方が事故を起こしてしまい
「車が勝手に暴走した!」
と言って聞かなくて、非常に困ったそうです。相手もいる事故で、ドライブレコーダーがついていなかった為、証拠がない。そこでEDRを解析したら、やはりドライバーの操作ミスが証拠として残っていて、3人掛かりでやんわり説得しにいったと言っていました。
うちの工場でも、見るたびに車がボコボコになるお客さんもいます。工場から見送る時、耳が遠いため相当高い回転数で半クラしながら出て行くんです。見てるこっちはもうハラハラです。もしクラッチを踏んでいる左足を急に離したらどうなるか・・・。
高齢ドライバーが家族にいて運転があぶなっかしい場合、家族としては運転をやめてほしいと思ってる人がたくさんいます。
よくあるパターンが鍵を隠してしまうパターン。高齢のお客さんから電話があって
「鍵を無くしてしまったからどうにかしてほしい」
という相談を受けることがよくあります。でもこれって、家族が運転をして欲しくないから取り上げてるケースが結構あるんです。本人は鍵をなくしちゃったと言っていますが、事故を起こされる前に取り上げてしまう。
鍵を無くしちゃった場合、当然作り直すことが可能です。ですが相手が高齢者の場合、家族に事情を聞いてからじゃないとトラブルになる為、作りません。
こんなケースもあります。その人の車が車検で入庫してきたとき。家族から
「車検が通せないほど壊れている、相当な高い見積もりを提示して廃車に追いやってくれ」
こういう相談を受けることもあります。この場合、ちょっと工場側からの意見だと困ってしまいます。気持ちはわかるけど、嘘はつけないところもあります。子供側から言っても聞く耳を持ってくれない、もしくは親の方がパワーバランスがまだまだ上である場合にこういう相談をうけます。
運転をやめてほしいと本人に伝えてもダメなのか、逆に怒られちゃうのかもしれません。
もしうちの工場が、わざと高い見積もりを提示したとして、嘘をつくとどうなるか?本人が違う工場ですんなり車検を通しちゃうことがある。するとうちの工場が嘘をついていたと、コンプライアンス上問題が生じるため、なかなか工場側から仲介には入れないのが現状です。まずは家族間でちゃんと話し合ってもらわないとダメです。
それでは、どうやって痛ましい事故を減らすのか?整備士的に考えてみたこと。まず、運転ミスというのはどの年代でも起こり得ます。これは高齢者だけの話じゃありません。そこを理解しないといけない。
そして、これからの日本は後期高齢者が大多数をしめていくので、きちんと社会問題として取り組んでいかないといけない。
踏み間違いによる事故を防ぐ為に、自動ブレーキ装着車を義務付けていくこと。これはすでに決まってきています。自動ブレーキ装着車には、誤発進防止装置もついてるので車側から踏み間違いを制御してもらう。
これは全てのドライバーに対して有効です。問題は、車は高いので簡単には買い換えられない。道路を走ってる車が全て自動ブレーキ装着するまでにはまだまだ時間がかかってしまう。
今は後付けでもペダルの見張り番といったいい商品がでています。踏み間違いを防止する後付け装置です。オートバックスなどで装着が可能です。これをまずは高齢ドライバーの車に優先的に装着していく。運転免許の更新時に高齢者の適正検査がありますよね?該当される人の車に装着していく。
リスクが高い人に最初に装着していってもらう。
そしてこれが本題になりますが、やはりある種通報システムを整備する方法。具体的にどうするか?これは整備工場と公安委員会の連携を密にする。
年齢がある程度になってきた人の整備歴などを公安委員会に開示するシステムを作る。整備の現場にいると
「この人は絶対に運転をやめた方がいい!」
という人が残念ながらいます。ご高齢の人であっても、判断力がしっかりしている人。受け答えがはっきりしている人とそうでない人に別れてきます。
それを一番知ってるのは、普段そのお客さんと接している整備工場の営業マンやサービスフロント。免許更新のリストをピックアップして、特定以上の年齢に達した人は、更新の前にどういった整備を受けてきたのか?この人は免許を更新しても大丈夫なのか?情報を共有できるようにする。
そして、適性検査を厳格に行って合否を判定する。ダメなら諦めてもらうしかない。免許の有効期間は3年とかではなく(現在71歳以上の高齢者は3年間の更新)、検査の結果如何では1年や極端な話半年にするのもありだと思います。
3年は長すぎる。ご高齢の人がぼやいていくんですが、
「ようやく更新ができた。それでやっと3年だよ」
って。つまりそれって、更新が難しいという判断をされているわけですよね。きちんと判断と操作ができる人なら、ちょっと更新作業は手間だけど別にどんとこいとなるわけですから。この年代の方は、時間にゆとりがある人も多いのでじっくりと免許更新と向き合ってもらったほうがいい。
ということで、現役整備士が高齢者の多発する事故について防止策を考えてみました。
・70代からの免許更新時か車検時に「ペダルの見張り番」といった装置を装着させる。(財源は免許更新の値段を少しあげてそこから負担するか、交通違反の罰金1割程度をそちらへあてる)
・70代からの免許更新時か車検時にドライブレコーダー装着を義務付ける。(事故時に本人との供述の裏付けの為も含む)
・整備工場と公安委員会が密になり、明らかに免許更新をやめた方がいい人の情報を共有化(整備歴などの開示。1年にどの程度クラッチOHをしたか、板金修理をしたか。免許更新を考えないといけない運転ミスによる修理歴をカウントして、更新時の適性検査を厳格化する)
・70代以上の免許更新期間を3年を廃止。最長で3年にして、場合によっては1年、半年といった期間に短縮して経過を観察する。
・免許を返納したドライバーで、生活の利便性を考えてタクシーの使い放題などサービスを充実させていく。(例えば駅や病院、スーパーの近くに住む人より山間地に住む人を優遇してあげる)
以上!僕も、毎日高齢ドライバーと接して整備をしています。そして小さな娘もいます。自動車整備を生業としている立場から、少ない知恵を振り絞ってみました。行政へ届いてほしい!
ガソリンスタンドでアルバイトをはじめ、その後指定整備工場へ就職。
働きながら、3級ガソリンエンジン、2級ガソリン自動車の整備資格を取得。2級整備士の資格を取得後整備主任に任命され、自動車検査員の資格を取得。
以後、自動車整備の現場で日々整備に励んでいます。
現役自動車整備士であり、自動車検査員。YouTuberもやっています。車の整備情報から新車、車にまつわるいろんな情報を365日毎日更新しています。TwitterやInstagram、YouTubeTikTokも更新しているのでフォローお願いします。