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自動車検査員の憂鬱「みなし公務員と呼ばれ、葛藤する戦士達」

自動車検査員という資格

自動車整備の資格に「自動車検査員」という資格があります。この自動車検査員という資格は整備士の資格とは違って、車検の完成検査を行って保安基準に適合しているかどうかを証明できる資格になります。

一般的な車であれば、新車で3年後。そのあとは2年ごとに車検という検査をしないといけない決まりになっています。車には車検があるというのは、免許を持っている人なら9割は認識していますよね。

車検では、24ヶ月の定期点検を行って各部を分解。それぞれが保安基準に適合するかどうかを確認して整備・完成検査をするというものになります。

ここでちょっと取り上げたいのが自動車検査員と呼ばれる人たち。

最寄りの陸運局の検査場では、国土交通省の自動車検査員・そして自動車検査独立行政法人の職員たちが事務局で車検の検査にあたっています。

ただ、そういった陸運局で、管轄内の検査を全て行えるかというとこれは圧倒的に不可能に近いです。まず、台数が相当数であるということ。そして人でも検査ラインもまったく足りません。

そこで、僕が勤めているような指定整備工場の出番ということになります。

指定整備工場は、基準を満たす組織を有してそこに自動車検査員が存在します。国の検査に変わって検査を行う権限を持っているのが自動車検査員というわけです。

この自動車検査員ですが、やはり車検の検査を国の検査員に変わって行うということになりますので、「みなし公務員」と呼ばれるわけです。

僕も自動車検査員の資格を持っていて、検査に日々携わっていますが、何か不備などがあったら「公務員と同じ罰則を受ける」ということになります。

そんなの当たり前だろう。車検の検査をいいかげんにやってもらっては困る!と、ユーザーの方は思うでしょう。

では、その我々「みなし公務員の自動車検査員」たちの憂鬱と葛藤について内情をお伝えします。

会社・ユーザー・検査を天秤にかけなければいけない

こうやって書くとちょっとわかりづらいと思うんです。

まず陸事で行っている本当の公務員たちの検査員について。彼らは基本的に、自分たちで整備を行った車を検査するわけではありません。認証工場で整備された車、そしてユーザー車検で持ち込まれてきた車について検査をします。

つまりそこでは、白も黒もはっきりさせることができるということ。持って来た車が、どんな理由であれダメなものはダメとはっきり言える立場にある。ここが強いところです。

では、我々指定整備工場の検査員に置き換えてみましょう。

我々はユーザー様から車検の依頼を受けて、それぞれ受け入れ・分解・中間・完成と段階を踏んで作業をしていきます。

ただ、受け入れ検査から中間検査までは、自動車検査員ではない整備主任が行ってもOKとなっているわけです。

お客さんと密に話し合って、整備メニューを決める。そして見積もりと納期を伝えて作業にはいります。ここでは金額も、納期も決まってきている。ですが、もし受け入れ・分解・中間検査までスムーズにいったあと、完成検査で車検に不適合となってしまったらどうするか?

会社として、お客さんに見積もりと納期は伝えてある。必ず明日には納車をしないといけない。車検に不適合だった部分が、追加で作業をお客さんに迷惑をかけないように自社工場負担で作業をしたとしても、部品が間に合わない。

さあ困った。

こうなるわけですね。国の検査員ならダメなものはダメだ!と突っ返すことができます。ですが、指定整備工場の検査員は、その整備を受け持った会社の一員でもあるわけです。一番はユーザーに迷惑をかけるわけにはいかない。ただ、保安基準を満たしているかというとダメである。

ユーザーと会社、そして検査を天秤にかけなければいけなくなるわけです。ですが、保安基準に適合していなければ証明することは許されません。

つまりここで指定工場の自動車検査員たちは同僚や、お客さんたちの厳しい視線を浴びせながらも不適合としないといけないわけです。

ここが現場で検査をやっていると本当に苦しいところです。

実際に僕もそういった検査に何度か遭遇します。そういったときは、もう最悪お客さんの家に担当した整備士と一緒に赴いて事情を説明して謝罪をすることもザラです。

会社としては、その日に納める約束だったのにそれができなくなるわけですからね。

他人が整備した車を検査するのは簡単なんです。

ただ、同じ組織にいる人間が整備した車を検査するのは、そう簡単にはいかないわけです。

おそらく完成検査が好きな指定工場の検査員なんかいないと思うんですよね。僕はそういった意味合いもあって、完成検査は大嫌いですからね。

ここで何を言いたいかというと、皆様が車検を依頼している指定工場の検査員というのはこういう気持ちで業務に携わっているということをお伝えしたかったのです。

もし指定工場の整備と約束の食い違いがあったとしても、それは簡単に決まったことではなく、自動車検査員と整備担当者たちが苦悩の末に決断せざるを得なかった結果であるということ。

ただの弁解に聞こえてしまうかもしれませんけど、僕も自動車検査員という資格を取得してから、完成検査の重みというものをただの整備士だった頃とは比べ物にならないくらい感じるようになった。

そしてそれは何年たっても変わっていないということ。

頑張れ指定工場の自動車検査員たち

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