車の故障の中でちょっと厄介なのが電装系等の故障です。その中でも配線関係というのは、診断の方法を間違えたりすると、なかなかゴールに辿り着けなくなります。
初心者整備士が陥りがちなミスなどを踏まえて紹介。
お客さんから
「たまにETCが使えない時があるから見て欲しい」
という要望を受けて、新人整備士に診断をさせてみました。彼はまずキーをACCに入れてETCの本体を確認。電源は入りました。おもむろに、彼は自分の財布から自前のETCカードを取り出して本体に差し込んで、ちゃんと認証されているかを点検した。
まあこのあたりまではいいペースです。ここから先の診断がまずかった。次に彼が行ったのは本体に繋がる電源のコード。これを本体から切り離して電源電圧を測定した。
特に問題は感じなかったそうで、本体に電源カプラーを接続。次に電源ケーブルの上流を点検に入った。電源はシガーソケットの部分からエレクトロタップで取っていた。
取り付けなどを点検して、問題なしと判断。彼が出した答えは
「電源もちゃんときているので、本体が故障しかかってると思います。」
と報告にきました。新人整備士でできる限り調べ上げたのでしょう。一部始終を見ていましたが、彼の診断には間違いがいくつかありましたので、説明をしておきました。
彼の診断の流れでここまではよかったなと思うのが、
・ACCで本体の電源が入ったこと
・自前のETCカードをいれてみたこと
ここまでは悪くありませんでした。次に行うべきはなんだったか?本来ならお客さんにもうちょっと詳しく問診をしておけばいいんですが、お客さんは帰ってしまっていた。
わかってる情報は
「ETCがたまに使えない時がある」
というもの。これだけでは、ETCが使えない時に本体の電源が入っているのかどうかの確認がとれないこと。ちゃんと本体は電源が入ってるんだけどバーが上がらないのかどうか。
これがわからないので、最終的な含みとして置いておきます。
新人整備士が自前のカードをいれてから、やってほしかったことはテスト走行。当然お客さんの了解を得てですけど。まずはその故障を再現するところからスタート。
ただしお客さんの車で高速道路を走行するかどうかはまだ早い。その辺を走り回ってみる。特にでこぼこ道。でこぼこ道を走行した時に何かしらの不具合が発生するかどうかを点検する。
配線の接触であれば、でこぼこ道で一瞬電源が落ちて、また電源が入る。
その瞬間ETCのアナウンスが再度流れるはず。これがつかめれば、本体の不良というよりは電源に問題があるということが確認とれます。
もし、走り回っても再現が出来なかったらどうするか?
ほとんどの新人がやってしまう失敗。すぐに配線カプラーを抜いてしまうという罠。本体を外して点検したい気持ちはわかるけど、それをやってはいけない。
なぜならば接触不良の点検を先にしないといけないからです。次に行うべきは本体カプラーがつながった状態で、カプラー付近の配線を揺すってみる。この時当然ACCはONにしてETCの電源は入っていること。
カプラー付近の配線を揺すって、電源が落ちたならカプラー部分の接触不良ということが濃厚になります。カプラーが甘噛みしていないか?故障が再現できたら、甘噛している可能性が高いのでカプラーを抜かないで押し込んでみる。
これでカチッといってカプラーがはまれば、甘噛みであったと結論付けできます。
カプラーはちゃんとはまっているのであれば、今度は電源線を1本ずつカプラーの裏から揺する。ACC電源線なのか、アース線なのか?
どちからの配線を揺すって再現できたらいよいよカプラーを抜いて、該当配線の端子を点検。端子の圧着不良や断線の可能性があります。端子と配線をそれぞれ点検して修理すればOK。
もし本体側のコネクタに異常がなければ、今度は電源を取り出している側へ移動。同じように配線を外す前に揺すってみて、故障を再現するところからスタートしないといけません。
ETCの取り付けで不具合があるとなると、経験上一番多いのがエレクトロタップのサイズが違う場合。
ETCの電源配線って細いのに対し、車体側の配線が太い為一回り大きいエレクトロタップで結線してあるケース。これは走行中によく電源が落ちる。
当然裏付けをする為にエレクトロタップを外す前に揺すって再現すること。
なぜこれを行わないといけないか?答えは簡単。原因を突き止めておかなければ修理完成とは言えないからです。よくあるのが
「この辺りを修理しておいたので様子を見てください」
という整備士の決まり文句。これってどう思いますか?故障がごくたまにしかでてなくて、再現できない場合ある程度疑わしい部分を改善しておくのは致し方がないです。
ですがこの様子を見てくださいという文句は、整備士に自身がない時の言い訳みたいな所があるんです。
僕が後輩に口すっぱく言ってるのは
・必ず故障を再現してから修理にとりかかること
・出来上がった時、自信を持って「故障箇所は治ったので安心してお使いください!」と相手に伝えられる整備をしろ
・お客さんの気持ちを自分に置き換えて、修理にあたること
故障が気になって修理に出したのに、プロから
「様子を見てください」
と言われるということは、まだ完全には治ってないんだな・・って思ってしまいます。そうではなくて自信を持って送り出せるように、故障をちゃんと再現して修理してください。
たまにお客さんが求めてる異音と違う異音を直しちゃうとかそういうこともあるので、できれば故障の再現にはお客さんと同乗して確認するのがベストです。
このETC不具合の診断って、電装系等の修理としては基本を学べます。最終的に配線の導通やらなにやらってやっていかないといけないけど、接触不良やカプラーの甘噛み、端子の圧着不足といった、表面化するのが難しい故障の場合、配線を切り離す前に必ず再現してから一つ一つ当たっていくこと。
順序を追っていかないと、本当の原因が掴めなくなる。これだと直ったとしてもなんだかスッキリしないし自信も持てないですからね。
ガソリンスタンドでアルバイトをはじめ、その後指定整備工場へ就職。
働きながら、3級ガソリンエンジン、2級ガソリン自動車の整備資格を取得。2級整備士の資格を取得後整備主任に任命され、自動車検査員の資格を取得。
以後、自動車整備の現場で日々整備に励んでいます。
現役自動車整備士であり、自動車検査員。YouTuberもやっています。車の整備情報から新車、車にまつわるいろんな情報を365日毎日更新しています。TwitterやInstagram、YouTubeTikTokも更新しているのでフォローお願いします。