車検や点検で車を預かる時、お客様ご用命事項というものを細かく聞くようにしています。車検の時しか工場に車を出さない人も多いわけで、せっかく車屋さんに出すのだから気になるところは直してもらおう!と。
そう考えている人は多いです。そのお客様ご用命事項の中で整備士泣かせのオーダーベスト3に挙げられるものを取り上げてみたいと思います。
「ギヤの入りが悪い」
マニュアルミッションに限っての話ですが、シフト操作をした時にスムーズにギヤが入らない。これを何とかしたいと考える人がかなり多いです。
ギヤの入りが悪いと言われたとき、何故整備士泣かせなのか?理由は2つあります。まず1つは修理するのに費用が高額であるということ。そして、簡単には直らないことが殆どだということです。
順を追ってみていきます。
ギヤの入りが悪い原因はそもそも何なのか?大きく分けて4つに分けられます。
・クラッチの切れが悪い
・ミッションオイルが著しく劣化している
・ミッション内部のギヤやシンクロが摩耗している
・ミッションのリンケージにガタツキなどがある
一つずつ確認します。
ギヤの入りが悪いと言われたときに、整備士が最初に試すことはクラッチの調整からです。
単純にクラッチが完全に切れていない状態で、シフトを動かそうとするとギヤは入りませんよね?ワイヤー式のクラッチは常に遊びを調整しないといけません。
クラッチの遊びが大きいと、ペダルを踏み込んでも完全にクラッチが切れないかもしれません。とくにクラッチを完全に踏み込む前にシフト操作をする人はてきめん。
最初に行うのがクラッチの遊びを詰める調整です。通常より早くクラッチを切るように遊びを詰めるわけです。
デメリットとして、遊びが少なくなるのでクラッチが滑りやすくなる。
新車って、クラッチの遊びがかなり少なめに調整されています。これはギヤの入りを重視したセッティングだと思います。
ただ、クラッチディスクが減ってくると遊びがさらになくなってしまい、最終的には常に半クラをしているような状態になってしまう。これだとすぐにクラッチが滑っちゃうので、適度に遊びを出してあげる。
整備士泣かせのオーダーである、ギヤの入りが悪い。車検や点検に出して帰ってくるとあまり変わっていない・・・。そう感じる人も多いでしょう。理由は費用がかからないクラッチの調整で様子を見てもらうくらいしかできないからです。
ミッションオイルをずーっと交換していないと、シフトフィーリングに影響してきます。ただし、ミッションオイルの番手をいたずらに変更すると、ギヤの入りに直結します。
純正が75W-85に90W-140などというデフのオイルを入れたりすると、オイルが硬くてギヤが入らなくなります。
事実僕がRX-7に乗っていたころ、冬ってミッションオイルが硬くてギヤが全然入らないんです。
ミッションオイルを新油に換えるだけでも、フィーリングが変わります。番手を上げると冬にい入らなくなる。
僕はRX-7にのっていたころは、家から出発する時ってギヤがある程度入りやすくなるまでずーっとセカンドのままで走ってました。ミッションオイルが温まってくるとようやくギヤの入りがよくなります。
このようにミッションオイルはギヤの入りに直結します。クラッチの遊び調整と同じで費用があまりかからないで試せるのはミッションオイルの交換。
車検や点検でお手軽にできるのはこのくらいです。ただし直るかどうかというと、微妙です。
ギヤの入りが悪いとき、その原因がミッションではなくクラッチ側にある場合、クラッチをOHすればある程度直ります。
一番影響してくるのが写真の部分。クラッチレリーズベアリングです。クラッチペダルを踏むとこのベアリングが前方に移動してクラッチカバーを押し付けて、クラッチを切るようになります。
このベアリングがスムーズに動かないと、当然クラッチが切れない為ギヤの入りが悪くなります。
遊びを調整してもだめ、ミッションオイルを変えてもだめとなると、次に考えるのがクラッチのOHです。
ただし、ミッション内部に問題を抱えている場合はOHしても無意味です。もちろん費用は5万円くらいからかかります。エンジンを降ろさないとOHできない車は工賃がさらにかかります。
ギヤが入らない症状の最悪パターンです。無理なシフト操作を繰り返して、ミッション内部のギヤが駄目になってるケース。
こうなるといかんともしがたいです。ミッションを載せ替えるか、ミッション内部をOHするしかありません。
特定のギヤがはいらないとか、入りずらいという場合はクラッチ側ではなくてミッション側に問題があると言えます。
費用は10万円~くらいを覚悟しないとだめです。あまり費用がかかるのならリビルトに載せ替えるのが手っ取りばやいです。
ギヤの入りが悪い原因が、リンケージにある場合。
FR車の場合はミッションからほぼ直接シフトレバーがセンターコンソールまで伸びてることが多いです。
しかし貨物車などになると、シフトレバーからワイヤーやらロッドを介してミッションに接続されている車があります。
この場合各部にブッシュなどが使われていて、ガタツキが発生していると、ギヤの入りが悪くなります。
正確に書くとギヤが入りにくいのではなくて、シフトレバーがダイレクトに操作できなくなる。シフトレバーの動きに遊びができてしまうので、どこにギヤが入ってるのかが分からなくなってしまう。
これはブッシュやリンケージを修理すれば直るので、あまりお金もかからないでオッケーです。
整備士的にはこのリンケージのガタがあるために、ギヤの入りが悪いという原因だったら一番うれしいですね。修理に多額な費用はかからないし、その割に効果が絶大だからです。
リンケージのブッシュを交換すると鈍い人でもすぐに体感できると思います。
ギヤが入りにくいというオーダーが整備士泣かせの理由は以上の通りです。
クラッチをOHしないと直らない。概算金額を伝えると高と言われる。ミッション内部の修理も同様です。
お客さんが思っている以上にお金がかかってくるのが一番の問題です。
整備士はほぼ結果がわかってる。それを伝えた後のお客さんのリアクションもわかっている。だから整備士泣かせのオーダーだと言われています。
徹底的に修理してほしいというオーダーをされた方が、作業者にとっては燃えるオーダーです。しかし車を道具として使ってる人が殆どなので、費用が掛からないようによくならないかなって、整備士は頭を抱えているのがこの修理です。
ガソリンスタンドでアルバイトをはじめ、その後指定整備工場へ就職。
働きながら、3級ガソリンエンジン、2級ガソリン自動車の整備資格を取得。2級整備士の資格を取得後整備主任に任命され、自動車検査員の資格を取得。
以後、自動車整備の現場で日々整備に励んでいます。
現役自動車整備士であり、自動車検査員。YouTuberもやっています。車の整備情報から新車、車にまつわるいろんな情報を365日毎日更新しています。TwitterやInstagram、YouTubeTikTokも更新しているのでフォローお願いします。