お客さんからの相談で、ちょっとショックな事例があったので紹介します。
というのも、普通の一般整備がまさかの整備へと発展しかねないものだったからです。事の発端は、夜に会社から家へ帰る時に異音がするというもの。
問診をしていると、どうもベルト鳴きっぽかったので、その場でベルト鳴きを再現しました。
ベルト鳴きの再現方法は比較的簡単です。ライトスイッチをONにしてエアコンを入れる。サイドブレーキを思い切り引いて、シフトをDレンジへ。その状態で少しアクセルをあおる。
こうするとATのストールテストのような負荷がかかり、ベルト鳴きが発生しやすくなります。音がお客さんと言っているものと合致していたので、修理メニューを提案。
触ったところファンベルトがカチカチで亀裂が凄かったので、ベルトの交換。あとは年式と走行距離も考慮して、クランクシャフトプーリーの交換もお勧めしました。
ファンベルトってゴム部品です。クランクプーリーは金属製。ベルトが硬くなってくると、金属のプーリー側が少しずつですが減っていきます。
プーリーも摩耗してくると、ベルトを換えてしばらくはいいんですけど、ある程度経過したら再度鳴くことがあるので、どうせならとクランクプーリーまでの交換を提案しました。
目次
ベルトとプーリーを外して驚きの光景が!
特に問題なくベルトを外し、プーリーも外し、さあ新品部品を取り付けるかなという頃で異変を感じました。
よく見てみるとまさかの状態。
なんとクランクシャフトのキーが折れて、シャフト内部でもみくちゃになっています。
ということはと外したプーリーも見てみると
やはりキー溝のところからクラックが入っています。
どうしてこのような事態になっているのか?
クランクシャフトプーリーとクランクシャフトって、ネジ止めされているだけではありません。シャフトには半月状の溝が切ってあり、そこにキーと呼ばれるプレートを載せます。
そのキーを元にシャフトとプーリーの位置関係を出して、ボルトで固定しているんです。
もしキーが機能をしていなければどうか?
ある程度はクランクシャフトのプーリーボルトでシャフトとプーリーは固定されています。
しかし、オルタネーターやエアコンなどファンベルトを介していると、それだけ引っ張られるためプーリーの位置がずれる可能性があります。
負荷をかけるとベルト鳴きをするというのは、もしかしたらプーリーが夜間にズレていたのかもしれません。
これは参った。修理するにはどうするか?シャフトを確認するとキー溝が広がっています。ということは、現状のクランクシャフトは使えない。
つまりクランクシャフトの交換=エンジンのOHか載せ替えかの2択になるわけです。
どうしてクランクシャフトのキーがつぶれているのか?
そもそもどうしてこのような事態になっているのか?これはあくまで想像です。
というのも、この車両はお客さんがどこかから買ってきたもので、以前の整備歴がまったく不明。
原因としては、クランクシャフトプーリーを一度でも脱着したことがあり、ネジが緩んでいたということ。
そしてもう一つは本当に製品不良だったということ。このエンジンはK6Aで、あたかも今スズキではR06Aエンジンのクランクシャフトプーリーボルトのリコールが出ています。
もし、積んでるエンジンがR06Aでリコール対応車だったら保証で直りました。もちろんK6Aにはそのようなリコールがないため、5年10万キロの特別保証が切れている時点で修理代は自腹になります。
とりあえず今後の修理については相談に乗るという事を伝えて、まずは購入した車屋さんにかけあってみてはとアドバイスをしました。
この業界、車屋さん同士のイザコザはタブーとされている
ちなみにですが、自動車業界って業者間のイザコザはタブーとされています。どういうことかというと、今回のようなケースでクランクシャフトに問題があることが分かりました。
お客さんの代わりにうちが相手の業者に詰め寄るという行為はタブーなんです。あくまでお客さんに現状の事態を伝えて、お客さんと業者で問題は解決してもらわないといけない。
それが嫌ならそもそも車の購入自体も当社に任せてもらえればよかったわけです。当社で販売した車に同様のトラブルが起きていたら、間違いなくクレーム扱いにしてエンジンをリビルトへ載せ替えます。
おそらく先方の業者さんもわからなかったと思います。こんなのベルトを外して交換したってわからなかったと思います。
最初からプーリーの交換まで提案していたからこそ発覚した問題で。もしベルトだけを当社が交換して後に再度ベルト鳴きが発生したら、最後に車両を触った当社の責任問題を追及される可能性もありますからね。
もちろん今回も突き放すわけでもなく、先方で修理を断られたら当社で修理することは全然OKとは伝えてあります。
もしこの事実を知っていてこの車を販売していたのなら、その業者はアウトですけど。多分知らなかったと思いたいです。
ベルト鳴きの原因はまさかのクランクシャフトにあったという最悪のパターンでした。
ガソリンスタンドでアルバイトをはじめ、その後指定整備工場へ就職。
働きながら、3級ガソリンエンジン、2級ガソリン自動車の整備資格を取得。2級整備士の資格を取得後整備主任に任命され、自動車検査員の資格を取得。
以後、自動車整備の現場で日々整備に励んでいます。
現役自動車整備士であり、自動車検査員。YouTuberもやっています。車の整備情報から新車、車にまつわるいろんな情報を365日毎日更新しています。TwitterやInstagram、YouTubeTikTokも更新しているのでフォローお願いします。