先日、お客様からこんな問い合わせをいただきました。
「急にエンジンが止まってしまって、道の真ん中でエンジンがかからなくなってしまった。すぐに来てほしい!」
これだけの情報だとわかりかねないので、落ち着いてもらいながら問診を続けます。この時すでにお客様パニック状態。
Qが僕がお客さんから聞き出している問いかけで、Aがその答えだとしてください。
Q.今は交差点や道の真ん中でエンジンがかからない状態なのですか?
A.そうだから、すぐに来てもらわないと困る
Q.どのようにエンジンがかからないのか教えてください。
A.鍵を回してもうんともスンともいわない
Q.エンジンが停止した状況はどのように止まってしまったのでしょうか?
A.信号が赤になったので、ブレーキを踏んだらそのまますーっとエンジンが止まってしまった
ここまで聞き出した情報で以下の動作をお願いしました。
Q.もしかしてギヤがDレンジに入っていませんか?そうだとしたら、NレンジかPレンジに入れなおして再始動をしてみてください。それでだめならすぐにレッカーを飛ばします。
A.あ・・・・かかった。
ちなみにこの電話をお客さんとやり取りしている間、後輩整備士が横にいてもしエンジンがかからなかったら何を持っていくべきか?を段取りしてもらっています。
結果エンジンはかかったからいいものの、もしかしたらそれでもかからない場合もあります。オートマやCVT車って、クラッチペダルによるクラッチ操作がないから基本的にはエンストしないもの。としてドライバーに刷り込まれています。
こういった車がエンストした時、想定外の事態でパニックに陥る人がほとんどになります。
ATやCVTはクラッチがないんだからエンストなんかするはずがない・・・。僕も免許取りたての頃はそうだと思っていました。
就職したての頃に日産ディーラーに友達が整備士として働いていたんですが、
「いやーうちの車オートマの癖にエンストして困っちゃってさぁー」
と、話してきたことをビックリしました。ATなのにエンストなんかするのか?それってどこかぶっ壊れてるのって。興味津々友達に聞いたことを覚えています。
AT=エンストしない
勝手に思い込んでしまってるわけです。でも車のメカニズムを学べば納得です。マニュアルミッションにはクラッチ操作があるからエンストする。これは実際に自動車教習所で体験している人が多いです。
マニュアルの免許を取った人は、一度くらいはエンストした経験はあるかなと。ですが、ATで実際にエンストするという事態に遭遇した人はいないかもしれない。
これが思い込みというやつです。マニュアルであろうがオートマであろうがCVTであろうがエンジンは同じです。エンジンが同じということは、いくらでもエンストをする可能性があるということ。
これを覚えておいてください。
昔のキャブレター時代って、今の電子制御で固められた車より頻繁にエンストを起こしました。何故かというと、電子制御だときめ細かにエンジンをコンピューターがコントロールします。
キャブ車になると、場合によってはECUがついてません。1つ1つの部品が各々に仕事をしています。燃料ポンプから吸い上げられた燃料がキャブに入ってくる。そこで噴射をする。点火のタイミングも合わせないといけない。
昔の車は点火タイミングの調整は頻繁に行っていました。
これがインジェクションになると全てECUが演算して指示を出してくれるようになりました。信号待ちで原則すると、アクセルを離します。すると空気がエンジンにいきなり入らなくなる。そのままだとエンストを起こしてしまう。
ではISCを動かして、吸入空気量を増やす制御をしよう。もしくは電子制御スロットルでスロットル開度を若干残して空気を取り入れるようにする。など。全てコンピューターが制御してくれる。
この電子制御によって、エンジンのコントロールをきめ細かに行うようになった為、エンストなんていうのは一昔前の症状になったわけです。
でもエンジンはエンジンです。何か不具合が起こればエンストをします。
例えば、メンテナンスをおろそかにしていると写真のようにスラッジやら何やらが堆積してきます。
このスラッジなどがインテーク側へ堆積してくると、吸入空気の通路が狭まってしまう。
ECUがこれだけバルブを開いて空気をいれよう!と演算をして指示したとしても、実際の通路がふさがってるから空気が足りなくなる。つまりエンストをするわけです。
最近のECUはそのあたりも学習するようになってるので、補正をしてくれるのですが完全ではありません。
メンテナンスの不備が原因でエンストが起こるということ。
メンテンナンスの不備が原因で、今の車でもエンストすることがわかりました。このほかにエンストする原因として、部品が故障してエンストするというものもあります。
今一番多いかなと思うのがガソリンエンジンの点火系統。ダイレクトイグニッションコイルが長く使ってくると壊れてしまう。すると、3気筒エンジンなのに、コイルが壊れた気筒が機能しなくなるので2気筒エンジン状態になってしまう。
イグニッションコイルって、1つ壊れると他の2つもじきに壊れるケースがほとんど。3気筒エンジンで2気筒失火すれば、エンジンはまともに動かなくなります。
つまり、エンストを起こすという事。
これはメンテナンス不備というよりは、部品の寿命が唐突にやってくるケースです。プラグは交換時期が定められていますが、イグニッションコイルは不具合が発生してから交換に踏み切るケースが殆どです。
点火系以外にも燃料ポンプがくたびれてきたりするとエンストを起こすことも考えられます。
ここからは対処方法です。
もし、ATやCVTでエンストしてしまったらどうするか?
一番エンストするシチュエーションとして多いのが、信号待ちで減速をしていたらそのままエンジンが止まっちゃったというケース。
この時、冒頭でも書きましたがシフトポジションがDレンジに入ってると思います。
ギヤがDレンジに入っているのに、エンジンを始動しようとキーを回したりプッシュスタートを押してもかからないようになっています。
ギヤはNレンジかPレンジじゃないとセルモーターが回らないように制御されているからです。
つまり、Dレンジでエンストを起こしてしまったら慌てないでPレンジやNレンジにシフトをチェンジしてからキーを回すなりプッシュスタートを押す。
これで大体の場合は復帰が可能になります。ATなのにエンストしないという考えが根底にあると、冷静に再始動ができなくなります。セルモーターを回すにはNレンジかPレンジじゃないと駄目だということを覚えておいてください。
問題なのは、ここから先。もしギヤがPレンジやNレンジに入れているのにセルモーターが回らない場合どうするか?
この場合はとりあえず直近でできることはないので、ハザードを焚いて車を停車するしかありません。後続車に故障を知らせて先に行ってもらいましょう。
三角表示板や発煙筒を使うのがいいと思います。
セルモーターが回らないということであれば、オルタネーターベルトなどが走行中に切れてしまい、車自体がバッテリー上がりの状態になっているという事。
ジャンプスターターを使ってエンジンをかければいいと思いますが、オルタネーターが発電をしてくれないとすぐにまたエンジンは止まります。
ベルトが切れていなくても、オルタネーター自体が故障していれば同じです。判断するポイントはベルトがかかっているかどうか目視で点検。
バッテリーをジャンピングしてつなげてエンジンがかかるかどうか?もしかかったとしたらジャンピングのケーブルを外したとたんにエンストを再び起こすか。エンストすれば充電系統のトラブルです。
もしかしたらセルモーターが回るけど、エンジンに火が入らないこともありえます。この症状で多いのがガス欠です。まさかガス欠か・・・?
でもガス欠です!多いです。燃料のメモリは一番下まで下がってないと思うけど・・・。仮に燃料メーターが下がりきってなくても、勾配を走っていたりして一時的にポンプがエアを吸い込んでしまうと、ガス欠症状になります。
燃料タンクには勾配の時でも安定して燃料を吸い出せるようにセパレーターを設けてありますが、それでも思ったより早くガス欠する車も多いです。
この場合はセルを回しても火が入らないです。
あとは点火系の部品が壊れていたり、エンジンのメンテナンス不足でエンストを起こしたけど、セルモーター自体が故障しかかって再始動ができないなどのケースも考えられます。
考え出すといろいろなパターンが出てきます。
ATなのに、エンストをしてしまった。最後にまとめてみます。
もし、走行中にエンストしてしまったら再始動を試みてください。
・Dレンジに入っていれば、NレンジやPレンジに入れなおしてからエンジンを再始動する。
・再始動ができない場合は三角表示板などを使って、後続車に故障を伝えて救援が来るのを待つ
・遠出する時などは、ガス欠しないように燃料は早めに補給する
・ATやCVTであってもエンストを起こすことがあるので、突然止まってしまっても冷静に!
以上です。ちょっと頭の片隅に入れておいてください!
ガソリンスタンドでアルバイトをはじめ、その後指定整備工場へ就職。
働きながら、3級ガソリンエンジン、2級ガソリン自動車の整備資格を取得。2級整備士の資格を取得後整備主任に任命され、自動車検査員の資格を取得。
以後、自動車整備の現場で日々整備に励んでいます。
現役自動車整備士であり、自動車検査員。YouTuberもやっています。車の整備情報から新車、車にまつわるいろんな情報を365日毎日更新しています。TwitterやInstagram、YouTubeTikTokも更新しているのでフォローお願いします。