昨日、トヨタの不正車検が再びネット上でニュースとなりました。
前回から出ていたディーラー以外でも、不正車検が行われていたことが判明したようで、その台数は6600台にも上るということです。
不正車検なので、本来行うべき検査を行わないで保安基準適合証を交付するなどしたという事になります。
僕も現役で自動車整備・検査をしている整備士を生業としています。どうしてこのようなことが起きたのか?現在の整備業界の現状を書いてみたいと思います。
目次
車検をやらないといけない台数は販売と比例する
自動車の販売と整備を行っている会社の場合、販売した車の台数と車検整備の数はもちろん比例しています。
たくさん売れた月があれば、その2年後、ないし3年後は全て車検の対象になります。すべての車両が車検として入庫しないとしても、繁忙期になればかなり忙しくなるんです。
ちなみに僕が働いている整備工場では、決算月の3月は一番車両の販売台数が多いです。これは、新生活を始める新社会人さんも車を買う時期だからです。
車がないと通勤できない人は、会社に入るために車を買う。そして決算。3月でいうと雪国ならばスタッドレスタイヤからノーマルタイヤへの履き替えの時期にもあたります。
急にタイヤ交換に来店されてきて、一日の車検台数がかなり増えてくる。明らかに仕事がキャパシティオーバーになる事が多々あります。
そんなとき、どうでしょう?流さないといけない仕事が流れなかったら・・。いろいろなものが重なって、最初の不正って起きるんだと推測します。そして一度それを許してしまうと、二度三度と繰り返して常態化へつながっていく。
車検のスケジュールを組むのが大変
車検なんか簡単でしょ?決められた点検をすればいいんだから!と思ってる人もいるかもしれません。
不正を行った工場は自前の検査場をもって、検査員がいます。そして整備するのは同じ自社の整備士です。持ち込みの車検と大きく違うところはここです。
もちこみ車検ならば、検査にパスすればいいという事だってできなくはありません。しかし、自前で検査するとなると、その整備に対しても責任を負わないといけない。
例えばタイヤがつるつるで駄目だとします。認証工場の持ち込みならば、工場の片隅にある代車のタイヤに履き替えて陸事へ行って検査をパス。その後にもとのタイヤに履き替えてしまうということも、グレーだけどクロではないんです。
お客さんが、タイヤは高いからなんとか通してよ!と言われると、そういった事ができなくはないわけです。
これが指定工場だと絶対駄目です。タイヤがつるつるなら買ってもらうか、スタッドレスタイヤとか違うものを用意してもらう。検査基準を満たしていと駄目ですから。
自前で検査をするということは、そういうことです。その代わり、書類だけをまとめて陸事へもっていって、新しい車検証をもらってくればいいので効率がいいです。
車検台数をたくさんこなせるのは認証工場よりも自前で完成検査をする指定工場になります。
3月の登録台数が250台あって、250台の車検を1ヶ月でこなすとなれば、一日あたり10台以上入れないとこなせない計算になります。
中には代車が必要なオーナーさんもいるでしょう。代車の数も限りがあるので、長くても2日間で終わらせないと次の予約が入っている。
納車の時期を簡単にずらせればいいんですけど、代車を貸していたりするとそれは無理になります。何とかして整備・検査を終わらせて納車しないと駄目です。次の予約に代車がスライドできませんから。
この代車管理と車検スケジュールの管理って、想像以上に大変で難しいです。今会社はこれを僕が担当しています。僕は車の登録と整備歴を1台ずつ確認してスケジュールを組んでいきます。
2日で終わりそうもないものに関しては代車の引き当て期間を長めにとっておく。こんなことがエンドレスで行われています。少しでも予定外の事が起きるとリカバリーが非常に大変です。
入庫台数の少ない月ならいいんですけど、超繁忙期の3月になるとスケジュール通りこなせていかないと一気に工場は崩れてしまう。
国家資格の整備士だけど、待遇は非常に低い
常々思ってることなんですけど、介護業界や車業界、保育園の先生など、明らかに仕事に見合った給料がもらえていない業種ありますよね。
国家資格を有して実務に当たっていても、本当に給料が安いです。僕ら整備士の場合、共働きをしないと本当に暮らしていくのが大変です。
車に対してネガティブなイメージがついてきて、若年層の就職率も年々下がりつつあります。整備士の平均年齢が上がり、車の平均年齢も上がる。車を長く使うという事は、それなりの整備をしないといけない。
技術はあっても体力が落ちている整備士が多いです。業界全体がそんな負のスパイラルに入っています。
お客さんにしてみれば、車の車検や整備代って高いというイメージが殆どです。受け入れ時に
ボールジョイントブーツが破れているという事で、修理するには1万円はかかりますというと、なんでそんなに高いんだ!と言われることがよくあります。
実際の作業を見ていてもらえれば、工賃として妥当かどうかってわかってもらえると思うんですけど、500円のブーツに工賃5000円かかったとなると、イメージ的に工賃でぼったくってるだろ!と言われてしまいます。
この先どうすればクリーンな車検になるのか?
じゃあこの先、どうすればクリーンな車検になっていくのか?
これは実際問題むずかしいですよ。今指定整備が特定整備へと変わりました。バンパー交換でも自動ブレーキのエーミングが必要だったり、専用の診断機が必要だったり。
これからの時代を生き抜くにはそれなりの投資をしないと、整備工場は生き残れません。つまり、廃業していく工場が増えていく。
そうなると、ますますディーラーの負担は増えていくと思います。ディーラー診断機しかできない作業などが発生すると、町工場からもディーラーへ一部作業を委託しないとだめですから。
今、整備士は非常に先の未来が見えない状態でもがき苦しんでいます。うちの会社でも、若い人材が退職していきました。業界の先に明るいビジョンが見えないからだと思います。
不正車検はもちろん絶対に駄目です。だけど不正に至るにはなにかしらのきっかけや原因があるわけです。
そこを是正していかないと駄目です。一番は人手不足ですね。そして、お客さんももう少し理解をしてもらえれば幸いです。ある程度ゆとりを持ったスケジュールにしてもらえると助かります。
キツキツのスケジュールだと、失敗が発生する恐れも出てきます。
車業界全体の事ですけど、そろそろ社会問題として考えていかないといけない時期に来ています。日本の主要産業です。
ガソリンスタンドでアルバイトをはじめ、その後指定整備工場へ就職。
働きながら、3級ガソリンエンジン、2級ガソリン自動車の整備資格を取得。2級整備士の資格を取得後整備主任に任命され、自動車検査員の資格を取得。
以後、自動車整備の現場で日々整備に励んでいます。
現役自動車整備士であり、自動車検査員。YouTuberもやっています。車の整備情報から新車、車にまつわるいろんな情報を365日毎日更新しています。TwitterやInstagram、YouTubeTikTokも更新しているのでフォローお願いします。