サービスフロントを経験してみてわかること

自動車ディーラーへ整備士として入社したとします。

整備士として進む道は2つに分かれます。まず一つは整備をひたすら続けて現場の工場長など責任者までやり遂げる人。

そしてもう一パターンは途中で営業にさせられてしまうという人。どちらかというと工場長になりたくても人数に限りがあるので大半の人は営業へ回されてしまうというのがセオリー化です。

技術も経験もノリノリな人材をなぜ営業マンへとシフトするのか?その理由は簡単です。

まず一つはそれぞれ自動車メーカーで専属の整備専門学校を持っています。僕の友達も栃木にある日産の整備専門学校を卒業して、2級整備士を取得。近所の日産ディーラーへ就職しました。

トヨタだって群馬に整備学校を持っています。これが意味することは、自前の整備学校を卒業してくる人材の就職の受け皿にならないといけない。

つまり、新卒整備士としてもう配属される予備軍がいる。その受け皿を用意すると、今まで整備をやっている人間が上の段階へ移動しないといけない。するとセールスへ転向させられる。

実際に整備士っていうのは時期によっても残業がかなり必要な職種です。それこそ日が変わるなんていうことは昔はしょっちゅうありました。リコールなどが入ってくると終わりませんから。会社としては残業代を出すとしたら、労働基準法で定まった賃金を捻出しないといけない。

基本給の安い若い人間に残業してもらう方が、運営はうまくいくわけです。こういった理由もあって、ディーラー整備士っていうのは町工場よりもはるかに平均年齢が低いです。

このような理由があって、ディーラー整備士というのは若くして整備の現場から卒業していきます。

では、営業にならないで生き残った整備士たちはどうなるのか?

まずはサービスフロントになるという点。フロント業務っていうのは、整備の知識をフル活用してお客さんと整備の現場の橋渡しをする役目です。

現場のメカニックが若ければ、自分でそれぞれ指示を出してサポートする役割もしています。このフロントというポジションに僕も3年いたことがありますが、まあ大変(笑)

今までお客さんとあまり接点のなかった工場とはまったく勝手が違います。2年間フロントをすると大体お客さんの整備を1周します。車検は2年に1回が主なので。初めて会話するお客さんが何を求めているのか、探りながら話を進めていく必要がある。

例えばスマートキーの電池。僕的には車検ごとに交換しちゃいたいんですよ。ボタン電池なんか1つ300円程度です。この電池切れを起こすと、それこそインロックをしたりエンジンがかからなかったり、トラブルの元ですから。

しかし、全てはお客さんに聞いてみないとダメなんです。たかが300円の電池でも。交換しなかったらどうして交換してくれなかったの?というお客さんもいます。

逆にそんなものは自分が交換するからいい!という人もたくさんいます。そういったお客さんの癖を2年かけて掴んでいく必要がある。3年目以降になると、一巡目で怒られたお客さんのイメージは覚えているので、希望にそった対応をできるようになる。

前のフロントや営業マンから本当に気をつけないといけないってお客さんは聞いていても、そうではない人でもコミュニケーションの仕方次第で善にでも悪にでも変わってしまいます。

もしフロントになってしまったらどうするべきか?一巡目はとにかくしつこいくらいに丁寧な対応をして、お客さんの癖を読み取りましょう。丁寧な対応は面倒臭がられるかもしれないけれど、間違いではないですから。

お客さんの色に合わせた対応をするのは二巡目以降です。車検後に点検が入ってきたのならなんとなくつかみはわかってますよね?そういった経験を蓄積していかないとダメです。サービスフロントっていうのは本当にその会社の顔に当たるポジションで、自分は一番大切だと思っています。

営業マンは基本的に自分のお客さんとの連携を密にすればいい。だけどフロントは来る人全てが自分の対応すべきユーザーです。その数は営業マンの比ではありません。

フロントに上がってから、営業に回される人もいれば工場長へ上がる人もいます。この辺りはフロントマンの技術と会社のポジション次第でしょうね。

ただ、フロントを経験しておくと本当に勉強になります。僕も整備工場で一番辛かったのはいつですか?と聞かれると間違いなくフロントをやっていた3年間!と即答できます。

工場長は工場長なりの大変さがあるでしょう。全てのサービスの責任を自分で負わないといけません。新米整備士がいろんな失敗をするでしょう。それをうまくリカバリーしながら、人材だって育成させないといけない。

つっけんどんな対応ばかりしていたんじゃ下がうまくついてこないですからね。

これから先一番困ってくるだろうなって思うのが、フロントも工場長も経験してこなかった整備士達。主に町工場になります。ディーラーは時が来たらあげられちゃうけど、町工場はそのまま年を重ねていきます。

今は専用の診断機がないと修理できない故障が多すぎます。そういった設備投資をきちんと行っている会社にいるのなら大丈夫ですが、そうではないと整備士をしていても直せない故障が増えてくる。こうなったときが辛い。

昔の車ばかり入庫してくるわけじゃないし、専門的な故障になるとディーラーに外注を出して修理してもらうといったことになると、整備利益も上がりません。

お客さんとの接点がたくさんあればいろんな催しをして、他の工場と差別化をはかれるけれど、そうでないとどん詰まりになってしまいます。

実際に今の整備業界の半数がこのどん詰まり状態になってきていて、廃業する工場もかなり増えてきています。整備士の担い手も少なく、衰退していくのは誰の目で見ても明らかになりつつあります。

最後に大事にすべきなのは人と人とのつながりかなって思っています。

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